相対音感習得のお勧め教則本
新版 音楽家の基礎練習
音大等でも幅広く使用されている読譜、ソルフェージュの包括的なテキスト。各章毎にリズムの練習、音高の練習、最後に両者を合わせた総合練習という構成。
第1部はリズムをたたく、音程を歌うという形、第2部は書き取りという形なので独習者は第1部のみで勉強して書き取りは音源付きの別のテキストを利用したいところ。たたく練習は非常に課題が豊富なので、リズムが苦手な人はたたく練習だけを集中的にやるという使い方もお勧め。ちなみに第1部は約180ページ,第2部は約50ページという構成。
(長所)
カリキュラムが段階的に進めるよう組まれており、何より練習課題の豊富なのが良いです。
位置づけとしては音感だけのテキストというよりかは読譜全般の学習書です。漸進的な課題と合わせて必要な楽典の知識も習得できるようになっています。このテキストの1部をしっかりやり通せば音感だけでなく総合的音楽力のアップに繋がると思います。
(短所)
歌うトレーニングに関しては音叉のA音を聴き、それを基準にして歌える音を段階的に増やして行く方針をとっています。音叉さえあればどこでも正確な音程が掴めるようになるので、合理的な考えだとは思います。けれども、個人的な見解を言わせてもらえば、この練習はある程度調性の感覚を把握できてからの方が効率が良いのではないでしょうか?
後はクラッシック系の教本ではおなじみのハニホへでの音名表記が結構煩わしい。これはクラッシックの教材全般に言える事ですが、このテキストでは特にうっとおしいです。慣れればなんと言う事はないのですが、ハニホへを使いつづけるのは害あって益なしなので早いところやめて欲しいというのは私のわがままでしょうか。
インプロヴィゼイションのための イヤートレーニング 2CD付
数少ないポップス系のイヤートレーニングの良書。コードを軸して歌うトレーニングが中心となっています。このテキストはドレミで歌う事ではなく、フアンクションのナンバーを使用する方式(例えばCMaj7に対してCは1と歌う)を採っていますが、これはドレミで歌う事と競合するものではありません。ドレミに読み替えるのもありですが、テキストの指導要領に従ってやるのも良いと思います。
(長所)
この本の要はやはりコードのトレーニングで、転回形まで踏み込んで徹底した練習方法がとられています。特にジャズ系統の
縦の構造に対する意識が大事な音楽をやっている人には適しています。
スタートはごく基本的な事から始まっていますが、終盤ではノンダイアトニックの高度な内容まで踏み込んでおり、
これ一冊で実践的なレベルの音感に到達できるように考えられたカリキュラムになっています。
(短所)
上の長所とのギャップが激しいですが、リズムを打つ練習、総合的な読譜の練習に関しては段階的とは言えず、また分量も足りません。この手の本としては比較的分厚い部類の本書ですが、それでも紙面が足りなかったのかもしれません。どうせなら別の書籍を副読書として推薦するなりしてそういうものは割愛しちゃった方が良かったのでは?
リズムや総合的な視唱の練習は他のテキストにゆだねて、基礎トレーニングのガイドブックとして利用するのが吉だと思います。
視唱の練習 和声感の育成をかねて
個人的に強く推薦したいテキスト。
(長所)
何よりも多くの視唱テキストで非常に不親切である、練習法の部分が明確に示されている事。練習の際にどのように和音を扱うのかが明確に書かれているところが独習者には助かります。課題の量も豊富なので基礎的な視唱練習の教材はこれ一冊あれば十分ではないでしょうか。
(短所)
あくまで「視唱」という枠組みのテキストなので、いきなりイヤートレーニング初心者が取り組むには難しいかもしれません。第1章のC durでもなかなか通せないようならば上で紹介している「インプロヴィゼイションのための イヤートレーニング 」等で基礎的な音程感覚を掴んでからスタートした方が効率が良いと思います。
初心者のための ビギニング・イヤー・トレーニング CD付
今までこの本に関してはレビューを書く事を躊躇していました。何故かと言うと、私自身が習得の段階で用いたテキストではなく、使用経験者としてのリアリティーのあるコメントが書けるか自信がなかったからです。今回、このレビューを書くに至ったのは私のサイト経由で購入してくださる方が結構いらっしゃるので、何も中身を紹介していないのは非常に心苦しかったためです。(おそらく上記の3冊と迷ったという方もいらっしゃったのではないかと思います。)
書く以上いい加減な事はできませんので、今回この本を購入して大体の内容をさらった上でこのレビューを書いていますが、一応このような事情がある事を踏まえて読んで頂けますと幸いです。
(長所)
この本は私がこのサイトで展開している方法論をそのまま、漸進的カリキュラムとして組み立てています。移動ドのシラブルを使用し、ドレミからスタートし、ドレミファ、ドレミファソ・・・とチャプターごとに一つずつシラブルを増やしていき、最終的にドレミファソラティまで到達する形になっています。各チャプターは歌う練習、リズムの指導、書き取り(附属CDを使用します。)と総合的なトレーニングができるようになっています。
(短所)
(長所)で書いた通り、カリキュラムの内容そのものには文句のつけどころがありません。しかし、このテキストには致命的な問題があります。それは最後まで完成させても「ドレミファソラティ」という相対音感の7つの音しかトレーニングできないという事です。もし、このテキストが5巻以上のシリーズの1冊目だったとしたら、文句なしにこの本を一押しにしていたと思います。しかし、残念ながらこの本は1冊だけで終了です。私見ですが、この到達レベルで満足できる方はあまりいないのではないでしょうか?
断っておきますが、「初心者のための」というタイトルを額面通りに受け取るならばこの本は間違いなく良書です。たとえば初心者のための相対音感トレーニングの課題に全く歯が立たなかったという方や、初期段階で練習のカリキュラムの組み立てがうまくできないといった方にはこの本からスタートした方がストレスなく練習が進められると思います。ただ、初心者のための相対音感トレーニングの課題ぐらいはこなせるというレベルの方や、現状で上記3冊の教則本の練習が問題なくできているような方には少々簡単すぎるのではないかと思います。
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