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相対音感習得のお勧め教則本
このページでは相対音感習得にお勧めの教則本を紹介したいと思います。おおまかに言うと、私が実際の学習した際に使用した本3冊とこのサイト開設以降に発売された中から吟味して選んだ2冊です。早いものでこのサイト開設から約5年(2011年現在)が経過しました。その間、雨後のタケノコのように新しい音楽書籍が出ている訳ですが、新しく加わったのは2冊だけです。そもそも耳を鍛えるという主旨の本自体がなかなか出ない訳ですが、内容的に充実している物に限定したら結局このわずかな数になってしまいました。
5冊紹介した中で、「視唱の練習 和声感の育成をかねて」と「大人のための音感トレーニング本」の2冊は特に強くお勧めしたいと思います。また、「音楽家の基礎練習」に関しては読譜全般の基礎トレーニングになっています。リズムが全然理解できていなかったり、読譜自体が困難なレベルならば優先的に取り組んでおいた方が良いでしょう。
この手のトレーニングはとにかく時間のかかる物です。いずれのテキストを選ぶにしろ、ほとんどが1年とか2年単位でじっくり取り組んでいく事になると思います。根気のいる作業になると思いますが、厳選した教材に絞り込んでいますのでそれだけの努力をする価値はあるはずです。また、練習に際しては安価な物で構いませんので、できるだけキーボードを用意してのぞむ事をお勧めします。
「視唱の練習 和声感の育成をかねて」は全く音感の訓練をしていない場合はちょっと難しいかもしれません。教材の選択基準としては初心者のための相対音感トレーニングが診断テスト代わりになるかと思います。こちらのページの練習が問題なくこなせるようならば「視唱の練習 和声感の育成をかねて」からスタートするのをお勧めします。これが結構苦しいようでしたら「初心者のためのビギニング・イヤー・トレーニング」や「インプロヴィゼイションのための イヤートレーニング」でもう少し単純な練習に取り組んでから進んだ方が良いかもしれません。
私が使用した教則本
私が音感習得に取り組むにあたってメインで用いて来た本です。基本的に方法論は相当昔に確立されていますので、クラシック系に関しては古くから用いられて来たものも含まれています。
音楽家の基礎練習
(パウル・ヒンデミット著 千蔵八郎訳 音楽之友社)
amazon→音楽家の基礎練習
音大等でも幅広く使用されている読譜、ソルフェージュの包括的なテキスト。 各章毎にリズムの練習、音高の練習、最後に両者を合わせた総合練習という 構成。
第1部はリズムをたたく、音程を歌うという形、第2部は書き取りという形なので 独習者は第1部のみで勉強して書き取りは音源付きの別のテキストを利用したいところ。 たたく練習は非常に課題が豊富なので、リズムが苦手な人はたたく練習だけを集中的にやるという使い方もお勧め。 ちなみに第1部は約180ページ,第2部は約50ページという構成。
(長所)
カリキュラムが段階的に進めるよう組まれており、何より練習課題の豊富なのが良いです。 位置づけとしては音感だけのテキストというよりかは読譜全般の学習書です。漸進的な課題と合わせて必要な楽典の知識も習得できるようになっています。このテキストの1部をしっかりやり通せば音感だけでなく総合的音楽力のアップに繋がると思います。
(短所)
歌うトレーニングに関しては音叉のA音を聴き、それを基準にして歌える音を段階的に増やして行く方針をとっています。音叉さえあればどこでも正確な音程が掴めるようになるので、合理的な考えだとは思います。けれども、個人的な見解を言わせてもらえば、この練習はある程度調性の感覚を把握できてからの方が効率が良いのではないでしょうか?
後はクラッシック系の教本ではおなじみのハニホへでの音名表記が結構煩わしい。これはクラッシックの教材全般に言える事ですが、このテキストでは特にうっとおしいです。慣れればなんと言う事はないのですが、ハニホへを使いつづけるのは害あって益なしなので早いところやめて欲しいというのは私のわがままでしょうか。
インプロヴィゼイションのための イヤートレーニング
(アーメン・ドリアン著 井上智訳 ATN)
amazon→インプロヴィゼイションのための イヤートレーニング 2CD付
数少ないポップス系のイヤートレーニングの良書。 コードを軸して歌うトレーニングが中心となっています。 このテキストはドレミで歌う事ではなく、フアンクションのナンバーを使用する方式(例えばCMaj7に対してCは1と歌う)を採っていますが、これはドレミで歌う事と競合するものではありません。ドレミに読み替えるのもありですし、テキストの指導要領に従ってナンバリングシステムでやるのも良いと思いますが、最初にどうするのか決めて一つの方法で一貫してやるのが大事ですね。
(長所)
この本の要はやはりコードのトレーニングで、転回形まで踏み込んで徹底した練習方法がとられています。特にジャズ系統の 縦の構造に対する意識が大事な音楽をやっている人には適しています。 スタートはごく基本的な事から始まっていますが、終盤ではノンダイアトニックの高度な内容まで踏み込んでおり、 これ一冊で実践的なレベルの音感に到達できるように考えられたカリキュラムになっています。
(短所)
上の長所とのギャップが激しいですが、リズムを打つ練習、総合的な読譜の練習に関しては段階的とは言えず、また分量も足りません。この手の本としては比較的分厚い部類の本書ですが、それでも紙面が足りなかったのかもしれません。どうせなら別の書籍を副読書として推薦するなりしてそういうものは割愛しちゃった方が良かったのでは? リズムや総合的な視唱の練習は他のテキストにゆだねて、基礎トレーニングのガイドブックとして利用するのが吉だと思います。
視唱の練習 和声感の育成をかねて
(金光威和雄 内藤忠勝 松代信子 呉暁 共著 音楽之友社)
amazon→視唱の練習 和声感の育成をかねて
個人的に強く推薦したいテキスト。
(長所)
何よりも多くの視唱テキストで非常に不親切である、練習法の部分が明確に示されている事。練習の際にどのように和音を扱うのかが明確に書かれているところが独習者には助かります。課題の量も豊富なので基礎的な視唱練習の教材はこれ一冊あれば十分ではないでしょうか。
(短所)
あくまで「視唱」という枠組みのテキストなので、いきなりイヤートレーニング初心者が取り組むには難しいかもしれません。第1章のC durでもなかなか通せないようならば上で紹介している「インプロヴィゼイションのための イヤートレーニング 」等で基礎的な音程感覚を掴んでからスタートした方が効率が良いと思います。
相対音感習得にお勧めの本
ここからは私が実際のトレーニング時に使ったものではなく、比較的近年に発売された中から納得できる内容の教則本を選んで紹介したいと思います。
初心者のためのビギニング・イヤー・トレーニング
(Gilson Schachnik 著 ATN)
amazon→初心者のための ビギニング・イヤー・トレーニング CD付
(長所)
この本の一番の特徴はカリキュラムが漸進的で無理がない点でしょう。移動ドのシラブルを使用し、ドレミからスタートし、ドレミファ、ドレミファソ・・・とチャプターごとに一つずつシラブルを増やしていき、最終的にドレミファソラティまで到達する形になっています。各チャプターは歌う練習、リズムの指導、書き取り(附属CDを使用します。)と総合的なトレーニングができるようになっています。非常に丁寧でちょっとずつ難易度があがるため、従来の教材よりもストレスなく音感を養う事ができます。
(短所)
(長所)で書いた通り、カリキュラムの構成は非常に無理がなく、他のテキストと比較しても一番使いやすいかもしれません。しかし、このテキストには大きなな問題があります。それは最後まで完成させても「ドレミファソラティ」という相対音感の7つの音しかトレーニングできないという事です。もし、このテキストが5巻以上のシリーズの1冊目だったとしたら、文句なしにこの本を一押しにしていたと思います。しかし、残念ながらこの本は1冊だけで終了です。私見ですが、この到達レベルで満足できる方はあまりいないのではないでしょうか?
断っておきますが、「初心者のための」というタイトルを額面通りに受け取るならばこの本は間違いなく良書です。たとえば初心者のための相対音感トレーニングの課題に全く歯が立たなかったという方や、初期段階で練習のカリキュラムの組み立てがうまくできないといった方にはこの本からスタートした方がストレスなく練習が進められると思います。ただ、初心者のための相対音感トレーニングの課題ぐらいはこなせるというレベルの方や、現状で上記3冊の教則本の練習が問題なくできているような方には少々簡単すぎるのではないかと思います。
大人のための音感トレーニング本 音楽理論で才能の壁を越える!
(友寄隆哉 著 リットーミュージック)
amazon→大人のための音感トレーニング本 音楽理論で「才能」の壁を越える! (CD付き)
ようやく洋書でも翻訳本でもない、(多分、純粋な和書では初と思われる)ポピュラーミュージックのちゃんとした音感トレーニングの本が出ました。これまでは音感関連の和書は本当にどうしようも無い物ばかりで、結局このサイトでもクラシック系の教材がメインにせざるを得ませんでした。ですからこれは非常に喜ばしい事だと思っています。
この本はこれまで紹介して来た物と違い、方法論の解説に非常に重点を置いた内容となっています。当サイトで紹介してきた書籍は基本的には実際の練習素材という色が濃い物でした。それでも、できるだけやり方が明示されている物を選んできましたし、不足部分はこのサイトで方法論を紹介する事で補うよう努力して来ました。ですが、読むという事においてはやはり書籍という形が現状ではベストですよね。
という訳で、基本の学習書としてこれまでのトレーニング主体の本のいずれかと一緒に手元においておく事をお勧めしたいと思います。残念ながら同レベルの類書が現状では存在しないので当然の帰結ですね・・・。著者の方針は私の解説と非常に似通っていますが、多少の違いもあるのでその辺を明瞭にしながら内容を紹介しておきたいと思います。従来紹介して来た教材との親和性にもある程度触れておいた方が良いでしょうね。
それではぼちぼち内容チェックに入りましょう。移動ド唱法の方法論はほぼ当サイトと一緒です。違いはミの#のような異名同音の名称も出している点と、ReとLe、RaとLaの区別は自分の中でついていればOKというザックリとした処理になっている点の2点ですね。まあ、私もそのままカタカナ読みもOKとも書いているので同じと言えば同じなんですが。
また、調性とか和音とは独立して、メロディーの音同士の音程感覚(著者は「絶対音程感」と称していますが)の習得を非常に重視しています。これまでも紹介して来た、「音楽家の基礎練習」なんかもこっちの方向のトレーニングがメインですね。やり方としてはコダーイメソッドのような既存の曲を活用して音を覚えるトレーニング法が軸になっています。
基本的に理論と音感のトレーニングは不可分というスタンスなので、333ページ中196ページまでは音楽理論と移動ド唱法での読譜を中心としています。音楽理論に関しては全部の事項を扱うのではなく、あくまで音感の習得に重要なポイントを徹底して暗記させる方針です。理論の重要ポイントの徹底習得は私も推奨していますが、私の場合は極力理論は理論で分けるよう努力しているので、そこはちょっと違いますね。
音楽理論の部分に関しては音感の習得までに相当の音楽的経験値を積んでいる場合、「もうそんな事は分かっているから早く音感の話を進めてくれ!」と思うかもしれません。そして、これまで私がサイト上で頂いて来たレスポンスを見る限りでは、独習で音感を身につけようとするのはそういう状況の人の方が多そうだとも感じています。ですのでできれば不可分な状態は避けた方が良かったんじゃないかなと個人的には思います。一応、著者はどこから読んでもOKと言っていますが、理論は分かっても移動ドでのソルミゼーションや視唱関連の話題は知らないという人が多いと思うので、結局最初は通読するのが無難でしょう。
この本の中で特に評価したい点はコードトーン・テンションの機能や音程ごとにそれが出て来る曲名と該当箇所の譜面を一通り掲載してくれている点ですね。「インプロヴィゼイションのためのイヤートレーニング」でP.29の音程のプロジェクトで自分で曲のメロディーの資料を作成する課題がありますが、これって結構手間がかかる作業です。こういうリファレンスがあると非常に助かります。曲の傾向としては主にスタンダードとか唱歌とか民謡、たまにポップスって感じですね。
あとは興味深いのはムタツィオという項目ですね。簡単に言うと一つのメロディーを固定ドや別のキーの移動ドで読める事(例えばドレミはFの移動ドで読めばソ・ラ・ティですよね?)を利用したトレーニングが紹介されています。たった一つの旋律がいくつものキーで音を捉えるとっかかりになるという発想はなかなか面白いです。
音程感覚を非常に大事にしている一方で、コードに対する感覚という部分はちょっと弱いかなとも感じます。あとは移動ドの難所でもあり、唱法で俺流を貫く勇気がないので当サイトでも敢えて解説を避けている、転調の話題がないのがちょっと残念ではあります。この辺はなんだかんだで新曲視唱のトレーニングは欠かせないはずなので、「視唱の練習 和声感の育成をかねて」で補って頂ければ良いかと思います。
という事でちょっと長くなってしまいましたが、レビューはこんなところです。あとはせっかくこういうちゃんとした本が出たんだから、末永く増刷し続けて欲しいなと願いたいと思いますね。